自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第25回】「『楽ちん』が似合う人」
画像

2018年5月3日(木)

 円周率の動画を見ることがある。
 3.1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899 8628034825…途切れることなく数字が表示される。
 一度見始めると目が離せない。次にどんな数字が現れるのか、見届けなくてはならない、そんな気持ちにさせられる。
 数字にはあいまいさがなく、何物にも代えがたい。
 僕は規則正しく画面に映る数字を頭に入れる。頭に入れるといっても、覚えているわけではない。数字は僕の脳に、一瞬刻まれたと思ったとたん、順送りに消えていくのである。
 円周率の数字のどこに惹かれるのか。
 円周率は僕にとって、ひとつの真理なのだと思う。
 答えの出ない問いを永遠に探し続ける。それは、人類が進化してきた過程そのものだ。
 真実に近づこうとし、努力を惜しまなかった人々を目にするたび、僕は拍手を送りたくなる。
 終わることのない数字にうんざりする人もいるかもしれないが、僕は素直に、これほどの長さの円周率を計算できる人が、この世にいることに感動する。
 円周率の計算は、今も続いているらしい。
 解けない円周率を解き続ける。その挑戦こそが、円周率の魅力なのだ。

2018年5月5日(土)

 鯉のぼりが5月の空にたなびく。
 男児の出世と健康を願い鯉のぼりを庭先に立てるのは、江戸時代から続く日本の風習だ。
「こいのぼり」と聞くと、僕はこの歌を思い出す。
甍(いらか)の波と雲の波、
重なる波の中空(なかぞら)を、
橘(たちばな)かおる朝風に、
高く泳ぐや、鯉のぼり。

鯉のぼり(作詞 不詳、作曲 弘田龍太郎)

 この歌詞は、とても雄大で、すばらしいと思う。
 特に瓦や雲を波に例えているところや、鯉が悠々と大空を泳いでいる姿は、日本人らしいひたむきさや一本気な性格、向上心が表れているように感じる。
 5月が近づくと、男の子がいる家庭に飾られる鯉のぼり。今は、近所でも見かけることが少なくなってしまった。
 小さい頃、こどもの日の前には、幼稚園の紙工作でも鯉のぼりを作った。
「僕はここだぞ」
 武将のように手作りの鯉のぼりを右手に掲げ園庭を走る。小さな鯉のぼりが、僕の旗印だ。
 不器用な僕が作ったへたくそな鯉のぼりは、遠慮がちに僕について来る。
 晩春の晴天の日、僕と鯉のぼりは、一緒に空まで駆け上ろうとした。
画像

書籍

『ありがとうは僕の耳にこだまする』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年03月24日

ネット書店で購入する