自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第22回】東田直樹の絆創膏日記「亀の鳴き声」
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2018年4月12日(木)

 僕は、子どもも嘘をつくと思っている。子どもだから嘘をつかないと言う人がいるとしたら、その人は、自分が子どもだった頃、嘘をついたことがないのだろう。道徳の授業の中では、嘘をついてはいけないと教えられているから、子どもが嘘をつくはずはないと信じ込んでいるのかもしれない。嘘が悪いことだという捉え方をしている人も多いだろう。
 大人の嘘は「やさしい嘘」だとか、「嘘をつく以外に方法がなかった」などの表現で肯定されることが多い。それならば、上手に嘘をつくのは、円滑なコミュニケーションをとる上で必要だと言える。
 嘘をつけば、罪悪感にさいなまれるに違いないと言う人もいるが、嘘をつけなくて損をしたり、追い込まれたりすることもある。
 子どもが嘘をつくのは、大抵怒られたくない場合だ。嘘がばれた時のことや、その嘘によって、どんな結果がもたらされるのかまで、深く考えてはいない。
 経験してみなければわからないのは、何でも同じだろう。人を傷つけないような嘘をつくにも、経験が必要だということである。
 子どもが嘘をついたとわかった時、大事なのは嘘をついたことを叱ることではない。なぜ嘘をついたか、子どもに尋ねるといいと思う。嘘がいけないのではなく、どういった理由で嘘をついたのかが問題なのだ。
 自分勝手な嘘だったり、卑怯な嘘をついたりするのはいけないが、思いやりのある嘘ならば、嘘をつくしかなかった子どもの気持ちを受け止めてあげるべきではないだろうか。

2018年4月13日(金)

 忙しいのは大変だが、多忙な時ほど、いつもより元気な人が多いような気がする。
 あれもこれもしなくてはならなくなり、もうてんやわんやだ。脳はフル回転、休む暇もなく体も動いている。
 その人の表情を見ると「今日は何て日だ」と言いながらも、いつもより生き生きしているのがわかる。やる気に満ち溢れているといった感じだ。
 躍動的な時間を過ごしている間、人は生命力に満ちている。きらきらと輝いている。自分でやり遂げると決心すると、目標を達成するまで頑張り続ける、そういった人が多いのではないだろうか。
 人は課題に直面した際、これを解決すれば、自分が少し向上したと感じる。大きな山でなくても、小さな丘をたくさん乗り越えることで、別の世界にたどりつけると信じている。やり遂げた先にしか見えない風景があるに違いない、と思っているのだろう。
 よりよい自分でありたいと願い、そのための試練に挑む姿は立派だ。
 生き続ける苦労というものは、年を取れば取るほど身に沁みてわかるものだが、だからといって、いくつになっても生きることから逃げるわけにはいかない。
 時間的余裕がないと、自分がどんな風に生きているのか、客観的な評価をすることは難しい。けれども、結果がどうであれ、正面から難題に立ち向かう姿は、賞賛に値する。
 充実した日々とは、自分を誇れるような時間を過ごすことである。
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2018年4月14日(土)

 4月になると、いろいろな職場で新入社員を見かける。新入社員からは、一生懸命さと緊張感が漂う。
「僕は新人です」と社員証に書いてあるわけではないのに、誰が見ても、すぐに新入社員だとわかる。
 新入社員は、おどおどしている。新入社員は、きょろきょろしている。仕事に慣れていないのだから仕方ない。現場では、ベテラン従業員と新入社員二人組で仕事をすることも多いようだが、ひと言会話すれば、どちらが新人か気づく。その一番の理由は、見た目の若さというより、話の「間」だと思う。
 難しい質問をされて言いよどむことは、誰にでもあるだろう。けれど新入社員は何気ない会話でも、答えるまで少し間が空く。どんな風に答えたらいいのか、自分の頭で考え、相手に失礼がないよう返事をしようとしているせいだ。仕事をする上で、言動に責任を持たなければならないという自覚が芽生えているからだろう。
 人は恥ずかしくない会話をしなければいけないと意識すると、発言する前に、一呼吸おく。その間、話そうとしている内容の全てをチェックすることは無理だが、ゆっくりと話し始めることで、落ち着いて会話が出来るからだ。新入社員の目標は、まずは失礼のない振る舞いをすることであろう。
 仕事をする人であれば、みんな経験して来た道だ。新入社員の頑張る姿は、昔の自分と重なる。
 新入社員を見て、思わず笑みがこぼれる。「新人さん頑張って」と心の中でエールを送る。この時期は、日本中が少しやさしくなっているような気がする。

書籍

『ありがとうは僕の耳にこだまする』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年03月24日

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