自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第13回】東田直樹の絆創膏日記「美しすぎる月」
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2018年2月6日(火)

 誰でも自分の思うようには生きられない。それなのに、人は、なぜか自分以外の人は好き勝手に生きているように感じてしまう。こんな大変な思いをしているのは自分だけだ、と他の人がうらやましくてしかたない。けれど、少し冷静になって考えてみれば、どんな人も、それぞれに悩みがあり、苦労しながら生活していることに気づくのだ。
 自分が幸せならそれでいいはずなのに、なかなかそう思うことができない。幸せになりたいと願い、そのための努力をしようと試みるが、どうしたら幸せになれるのかがわからない。本を読み、インターネットで調べ、テレビを見て、人に聞く。一体、幸せとは何だろう。この問いの答えを、多くの人が死ぬまで探し続けるのである。
 自分は幸せだと感じている時でさえ、隣にもっと幸せそうな人がいると、自分の幸せが偽物かもしれないと疑い始める。すると、自分が幸せだったことも忘れ、新たな幸せ探しの旅に出てしまう。
 自分より不幸な人を見つけると反省する。そして、幸せが逃げないよう両手で囲い込もうとするが、よその人の幸せが目に入ると、その幸せまでもつかもうと手を伸ばし、今持っている幸せを取りこぼしてしまうのだ。
 人が幸せに満足することはないように思う。自分が持っている幸せは、十分なのか、これ以上のものはないのか、誰かと比較せずにはいられないせいだ。幸せというものが、形の見えないものだからだろう。
 幸せになることに貪欲であればあるほど、幸せから遠ざかってしまう。どこに幸せがあるのか探している間は、本当の幸せは見つからない。

2018年2月7日(水)

 例年にない大雪のために、大変なことになっている。ニュースを見て本当に驚いた。短時間にこんなにたくさんの雪が降るなんて信じられない。被害にあわれている方々が、どれだけ不安なのか、雪国に住んだことのない人間には、わからないだろう。少しでも早く普通の生活に戻れることを祈るばかりである。
 雪と共に生きて来られた方たちの忍耐強さは、見習わなければならない。生活というものは、簡単に変えることが難しい。家や職場、学校のこと、どれひとつをとっても、そこで積み重ねた時間の上に自分や家族の現在があるのだ。友達や同僚、近所の人たちとの人間関係も大切なものに違いない。
 よりよい環境をつくりたいと思っても、実現するにはお金も手間もかかる。話し合いを行い、そこに住んでいる人たちの意見をまとめるのも、かなりの時間を要するのではないだろうか。
 みんなが困っているのに、自分ひとりの力では簡単に解決できないのだ。なぜなら、同じ地域に住んでいても、何を変えてほしいかは、ひとりひとり違うからである。結果的に、今と同じ状況が続いてしまう。
 民主主義は多数決で決まる。なるべく多くの人たちの意見を反映するためである。多数決で負けたとしても、少数派の人にも意見を主張する権利はある。ただし、その意見を取り入れるか入れないか、それも、みんなの意見で決まるのだ。
 不平等だと言う人はいるだろう。もしそうなら、不平等ではない民主主義とは、どういうものか教えてほしい。
 今はただ、雪がどれくらい降り続くのか、悲しい思いで見守るだけである。
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2018年2月9日(金)

 温泉の露天風呂に入った。気持ちが良かった、まさに極楽だ。家でも毎日お風呂に入っているが、外気に触れながら入浴できるのは、温泉ならではだ。温泉に入るために、その土地まで出掛けることが、贅沢そのものである。
 温泉のお湯にぼーっと浸かっていると、気持ちがゆっくりと溶けていくような感覚になる。ここにいるのは僕だけど、僕ではない。これが、非日常ということだと思う。おかしく聞こえるかもしれないが、普段と異なる環境にいると、どうして自分が今ここにいるのか、だんだんわからなくなって来る。いつも家で入浴している時間に、お風呂場にいるはずの僕がいない。自分はひとりしかいないのだから、そんなの当たり前だと考えるのが常識だろう。
 人は、どこにでも移動できるせいで、ここにいるのが自分だと信じて疑わない。それは、正しいのか。人と時間と場所との関係は、もっと複雑ではないのかと疑問を抱く。
 もしかしたら時間は、過去から未来へと一直線に進んでいるわけではなく、円を描くように何層にも絡み合い、その場所にとどまっているのではないだろうか。時間が流れているように感じているだけで、現実とは人の記憶がつくった錯覚のような気がしてならないのだ。
 その昔、地球が丸いことを人々は信じなかった。人が知らない真実は、まだまだあるに違いない。
 温泉に浸かりながら、家のお風呂に入っている自分を空想する。この違和感をどうしたら拭えるのか、湯煙に包まれながら、ひとり瞑想した。

書籍

『自閉症のうた』

東田 直樹

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2017年05月26日

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    書籍

    『あるがままに自閉症です』

    東田 直樹

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年06月17日

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      書籍

      『自閉症の僕が跳びはねる理由』

      東田 直樹

      定価 756円(本体700円+税)

      発売日:2017年06月15日

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