>>【連載第12回】東田直樹の絆創膏日記「雪は魔物」

2018年1月31日(水)
人というのは、自分の行動を否定されると怒るのに、他の人の行動には文句を言うものである。自分で悪いと思っていても、指摘されるといきり立つ。
考えてみれば、子供は守られる側、大人は守る側なのだ。
「守る」か「守られる」かは、立場が逆である。子供時代に優秀な子が、大人になって優秀だと限らないのは、当然なのかもしれない。
ただ、これは仕事の種類や社会的立場によっても変わって来るだろう。
新しい発想力やその時々に応じた判断力を重視される職業もあれば、指示通りに仕事をやり遂げることを最優先にしなければいけない作業もある。
真面目な優等生は、いい子に違いないが、いろいろな個性を持った子供も、これからの社会に必要だと思う。どのような分野でも、画一主義になったとたん、進化は止まるだろう。
進化が止まれば衰退する。衰退は、人類の危機に繋がらないとも限らない。それを回避するために、新しい価値観を構築しなければいけない時代が来るかもしれない。これまで人々が経験したことのない苦難が始まるのである。
その時、世紀末の救世主が誰になるのか、わからないのだ。
2018年2月1日(木)
宇宙の出来事は、人の暮らしとは、かけ離れた現実だが、昨夜、運良く目にすることの出来た月は、これまでで一番美しく輝いて見えた。
光と影が織り成すコントラスト、神秘的な赤銅色の月は、宇宙という空間に、太陽と月と地球が確かに存在していることを改めて僕に教えてくれた。僕は、いつもと違う月の美しさに目を奪われながら、普段の月を待ち続ける。美し過ぎる月は、時に不安を駆りたてる。
「月に願いをかける」という言葉があるが、人々にとって、月は女神のような存在ではないだろうか。やさしい光で人々を照らし、暗い夜に寄り添ってくれる。逃げ場の欲しい人々は、微笑む月に救いを求め手を合わせる。それは、大昔から永遠に続けられてきた習わしでもある。
月食は古代の人たちの目に、どう映ったのだろう。信じられないような光景を前に腰は抜け、心臓が凍りついたのではないか。大昔の人たちの動揺を思いやる。
どこで誰が月を眺めていても、自分には知るよしもない。それでも同じ月を他の人も見ていると思えた時、勇気と希望がわいて来る。
月が存在すること、そのものに意味があるのだ。
月を見ている自分の存在を認めてもらうため、今日も人々は祈り続ける。

2018年2月2日(金)
「鬼は外、福は内」という掛け声と共に、豆を鬼役の人にぶつけるわけだが、僕は、豆が入ったますや袋を手に渡されたとたん、ひっくり返すので、周りの人たちに叱られていた。鬼退治が目的だと知らず、みんなが豆を投げているのは、ますや袋の中身を空にするためだと思っていたのだ。
「この豆は、鬼に向かって投げるんだよ」と言われても、鬼が誰だかわからない。すぐ側にいる人でなければ、僕の視界に入らないからだ。わざわざ鬼役の人が横に来てくれても投げられない。今度は鬼のお面に気を取られて、豆を持っていることなんて忘れてしまう。見かねた人が、僕の手に豆を握らせてくれるが、豆を握ると、食べていいのだと思い口に入れる。すると、また注意される。周りの友達を見ると、みんなキャーキャー興奮して大騒ぎである。何だか楽しそうだ。僕も嬉しくなって跳びはねる。
結局、どうしてみんなが逃げ回っているかわからないまま、おかしな変装をしている人(鬼)が僕の目に止まり、その人に抱きついている間に終了。
豆まきは僕にとって、意味不明な行事だったことは違いない。でも、楽しかった、いい思い出だったと懐かしく思い返すことが出来る。
何でも、うまく出来たから楽しいとは限らないし、うまく出来なくても楽しいと思えるものもある。要するに本人次第なのである。
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