『自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第11回】「今日という日を生き抜いて」
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2018年1月23日(火)

 昨日から降り出した雪で、辺り一面真っ白になった。
 雪が降ると、僕は見上げてしまう。この白い綿みたいな氷の結晶が、本当に空から降って来るのか、まずは確かめたいのだ。
 ちらちら、ちらちら、舞うように雪は地面に落ちる。体にくっつくと、ほんの少しの間は、そのままの形を見せてくれるのに、やがて溶けてしまう。
 雪には、空からのメッセージが込められているのではないかと、考えていた頃がある。きっと、雪に音がないからだ。しんしんと降り積もる雪。冬になると、この世界を一面の銀世界に変えてしまう。
 雪片が雲から地上に落下するまで沈黙し続けるから、雪のさざめきを聞きたくなるのだ。静けさは、人の注意をひく。僕は耳を澄まし、雪の言葉に心を傾ける。
 僕にとって、雪は魔物である。少女のように純粋で清らかかと思えば、怪物のごとく容赦なく人々に襲い掛かる。同じ雪とは、とても思えない。
 僕の肩で、はかなく消える雪は、涙と似ている。美しさだけを思い出に残し、心を慰めてくれる。
 春になったら消える。この約束が人々と雪との絆であろう。

2018年1月25日(木)

 信じられないような苦難にあった時、人は何を思うのか。恐らく、考える余裕などないだろう。危機に直面した際、立ち向かうことが、最初に人がする行動だと思う。はなから諦める人などいない。それが人に組み込まれたDNAというものだからだ。けれど、戦いにも限界がある。限界を越えると、今度は、気力をなくしたり、自分自身を攻撃したりしてしまう人もいる。
 現状を打破するのに、勝つか負けるかしかないという価値観だけでせめぎ合うのはしんどい。克服しなければ先が見えないのであれば、永遠に問題は解決しないことになるだろう。
 戦うための気力や体力は、使える量が決まっているのかも知れない。なるべく上手に消費すれば、今より悪くなる状況は避けられるような気もする。いわゆる休息したり、栄養をとったり、気分転換したりすることだ。
 人生には、いろいろな難題が起きる。自分の思う通りにならないことの方が多い。勝ち続けることでしか自分を認められない人もいるだろう。
 もしも、どこかで頑張れない自分を許す気持ちを持てれば、自分も周りも今より少し楽になるような気がする。これは、負けでも逃げでもない。変わらない自分を維持するために必要なことだと思う。
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2018年1月27日(土)

 僕は、自分がいつ、どこで何をしたのか、記憶があいまいだが、今日が何日で何曜日かを間違えることはない。自分がそうだから、他の人も同じだと思っていた。
 今日という日は、今日しかない。どれだけ似ていても、全て別々の日なのだ。今日が何日かわからずに過ごすなんて不安だと思う。
 でも、家族は時々、「あれっ、今日は何日だっけ?」「明日、木曜日だよね?」などと言うことがある。家族の中で、僕だけは絶対に日にちや曜日を間違えないので、最後には僕に日付を確認する始末である。
 どうして、日にちや曜日がわからなくなるのだろう。
 日付というものは、未来永劫変わることはないにもかかわらず、記憶が混乱するのが僕は腑に落ちない。
 日にちは連続している。その流れは、みんなの頭の中では、一直線に並んでいる日にちの上を順番に歩いているような感じなのかも知れない。だから、よそ見をしていると、どこを歩いているのかわからなくなり迷子になる。
 僕の場合は少し違う。僕が日にちの上を歩かなくても、日にちの方から僕のところへ押しかけて来てはくれるものの、その日が終わると、日にちは勝手に僕から離れ、好きなところに行ってしまうのである。
 今日を間違わないというのは、特別威張ることではないだろう。けれど、日付という時間の経過の中で、今日という日を僕は十分に理解できているという事実は、生活する上での安心材料のひとつとなっている。

書籍

『自閉症のうた』

東田 直樹

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2017年05月26日

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    書籍

    『あるがままに自閉症です』

    東田 直樹

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年06月17日

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      書籍

      『自閉症の僕が跳びはねる理由』

      東田 直樹

      定価 756円(本体700円+税)

      発売日:2017年06月15日

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