『自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第8回】東田直樹の絆創膏日記「カラスと僕と冬の空」
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2017年12月27日(水)

 今年も残りわずかとなった。
 年末になると一年を振り返るという人もいるが、僕自身は、あまりしない。時系列にそって、1月から12月まで順番に起きた出来事を思い出す作業が苦手だからだろう。
 僕の記憶は、他の人とは少し違っていると思う。何かを思い出す時には、編集された動画のようなものを頭に思い浮かべるわけではない。過去の出来事は、写真のように一場面、一場面がばらばらで、過ぎ去ったとたん、瞬く間に僕から離れ、遥か遠くへ飛んで行ってしまうのである。
 記憶を思い起こすたび、まるで、夜空の星を眺めている心地になるが、僕が思い出の美しさに酔うことはない。数え切れないほどの過去の場面を前に、迷子の子供みたいに、べそをかくだけである。
 それぞれの場面を見れば、自分がしたことを思い出せるが、どれとどれが結び付くのか、関係があるのか見当もつかない。
 いつしか記憶を繋げることを諦め、僕は静かにひざまずく。
 多かれ少なかれ、過去を前にすれば、誰もが罪人に違いない。いつどこで起きた出来事だったのか、なぜそんなことをしたのか、僕は弁解できず、懺悔の言葉も浮かばない。
 僕にできるのは、今を一生懸命に生きることだけ。
 過去に別れを告げ、僕は立ち上がる。前だけを向いて歩いて行く。

2017年12月28日(木)

 冬になると、動くのが億劫になるという人も多いのではないだろうか。寒さのせいに違いない。僕は、暑がりな上に、じっと座っているのが苦手なので、寒くて動けないという状態にはならない。どちらかといえば、寒い方が体調がいいくらいである。それでも、他の季節に比べ、冬に少し気分が沈むのは、気温が下がることで、体の動きが鈍くなるからではないだろうか。
 動物の中には、冬に冬眠するものもいる。動物が活動力を極度に低くした状態で越冬する現象を冬眠というようだが、人間も同じような性質を持っているのかも知れない。
 気力が低下することをマイナスイメージにとらえる人が多いと思う。けれど実際は、理にかなっている場合もあるような気がするのだ。体力が落ちていたり、環境が変化したりして、体に負担がかかっているのに、気力だけで何とか乗り切ろうとするには無理がある。
 人間は、自分の体について、意外と知らないのではないか。
 動物なら、本能で自分の身を守ることが出来ても、体調の不良を気力で補うことが可能な人間は、知らず知らずの間に無理を重ねてしまうのだろう。気づいた時には、体や心が病んでいたという状態の人もいる。
 動きたくなければ、動かないという選択肢があってもいいはずだ。
 動物としての本能と人としての理性の間で、いつも人は、揺れ動いている。
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2017年12月31日(日)

 大晦日、今年も今日で終わるという感慨にふけっている人もいるだろう。
 僕はといえば、あまり代わり映えしない一日を過ごしている。
 お正月の準備に追われている家族の手伝いをしながら、そうそう一年の終わりは、こんな感じだと頭の中から12月31日の記憶を引っ張り出し、いつもと違う状況でも慌てないよう、自分に言い聞かせているところである。
 昨日と同じ時間に夕食を食べ、お風呂に入り布団で寝る。夕食の献立は年越しそば、テレビ番組は紅白歌合戦ということだけはいつもと違う。
 僕は夜中にテレビを見ないので、除夜の鐘は今年も聞かないだろう。家では規則正しく生活している。窮屈そうだと感じる人もいるかもしれないが、僕自身は窮屈でも退屈でもない。特別な日だからこそ、普段通りに過ごし、気持ちを落ち着かせたいのである。
 新しい年に期待する気持ちは大きい。
 過去は戻って来ないが未来は変えられるという人もいるが、最近の僕は、過去も未来も変えられるのではないかと考えている。今が良ければ、辛かった過去さえも肯定できるのが人である。現在の自分が幸せなら、それまでの道のりも、自分をより輝かせるためのステップのひとつだったと信じられる。このままの自分を、まるごと受け入れられるのだ。
 2018年が幸せであれば、僕が生きて来た月日にも花が添えられるだろう。

2018年1月3日(水)

 新しい年が始まった。僕の家でも地元の神社に初詣に行った。
 神社に着くなり、僕は駆け出してしまう。近くにおられるかも知れない日本古来の神様を探して、あちらこちらと動き回る。拝殿の中を覗いてみる。本殿の裏を歩いてみる。ムクロジやイチョウの木の上を見上げてみる。けれど、神様のお姿に接することは出来ない。ひんやりとした空気が、境内を取り囲む。
 僕が、神様を探している間にも、次々と参拝客が訪れる。どの人も、清々しい気持ちでお参りしているのだろう。ガラガラという鈴の音、深いお辞儀と手を打ち鳴らす音、みんなの姿を神様は見守ってくださっている。
 僕は、神様の気持ちを想像してみた。
(こんなにたくさんの願いを叶えられるかなぁ)
 神様は時々、神社の片隅で、息抜きしているかもしれない。厳かな雰囲気の境内の中では、ため息もつけないだろう。
「僕の願いは、後回しでいいです」さい銭箱におさい銭を入れた僕は、感謝の気持ちだけを神様に伝えた。
 太陽の光が数本、真っ直ぐに地面に降り注ぐ。
 僕は、光をつかむように、片手を差し出した。光をさえぎっている手の平が、ぽかぽかした。かざした手の温もりを、自分の頬っぺたで確かめる。
 頬っぺたが神様の体温になった。
 
 
第10回は1月24日の更新予定です。

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世界的ベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫)の著者である東田直樹さん。書…

書籍

『自閉症のうた』

東田 直樹

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2017年05月26日

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    書籍

    『あるがままに自閉症です』

    東田 直樹

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年06月17日

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      書籍

      『自閉症の僕が跳びはねる理由』

      東田 直樹

      定価 756円(本体700円+税)

      発売日:2017年06月15日

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