『自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第6回】東田直樹の絆創膏日記「かごの中の鳥」
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2017年12月12日(火)

 いい人というのは、どのような人か。誰にでもやさしく、気遣いができる、そして笑顔を絶やさない、こんな感じだろうか。
 もし、いい人だと言われたら、喜ぶ人が多いと思う。いい人だと、どうして嬉しいのかと考える。たぶん、褒められているような気がするからだろう。
 いい人は、褒め言葉なのである。褒められると人は嬉しい。それはなぜか、堂々巡りみたいにそんなことを僕は考える。
 こんな疑問が湧いた時、僕が人に答えを聞くことはない。なぜなら、人の答えは当てにならないことの方が多いからである。ばかにしているわけではない、どんな人も自分の都合のいいようにしか、物事を解釈しない傾向があることに気づいたのである。
 僕もきっと同じであろう。どっちみちそうなら、自分で考えた方がいい。その方がすっきりする。
 いろいろな意見を聞くことで、視野が広がるという人もいるかもしれない。でも、多くの疑問は、物事を突き詰めて考えることが重要なのだと思う。筋道立てて考えるためには、ひとつの仮説から推察する方が、早く答えにたどり着けるのではないだろうか。
 僕が繰り返し考える時、ああでもない、こうでもないと思い悩んでいるわけではない。ひとつのテーマを決めたあとは、他に似たような事柄はないか探してみる。見つかると、比較し分析する。それを永遠に続けるのである。
 これは、科学者の仕事に近い作業とも言える気がしなくもない。

2017年12月13日(水)

 今年一年の世相を漢字一字で表現する2017年の「今年の漢字」に、「北」が選ばれた。北朝鮮のミサイル発射や核実験の強行、九州北部豪雨などが理由らしい。毎年、どのような漢字が選ばれるのか、世間の関心も高いようだ。
 漢字というのは、おもしろい。一字だけでも、それぞれの文字に成り立ちや物語がある。
 文字で表現する際、漢字、ひらがな、カタカナでは、同じ言葉でも印象が違って来る。どれを使うかは、文脈によって考えなければいけないが、文字の中で、僕は漢字が一番好きだ。漢字を見ると、へんとつくりを分解したり、別の漢字を並べて熟語をつくったりして遊ぶ。
 漢字本来の意味とは関係なく、ひとつひとつの漢字には性格があるような気がしてならない。人と似ていると思う。僕と漢字との関係性に、一字一字距離を感じるのである。その漢字をつかう頻度が多ければ近いわけではなく、それぞれの漢字に対する思い入れの強さに差があるのだ。
 全体のバランスや形の美しさによって、好きな漢字は決まってくる。そのひとつが「三」だ。
 線が3本並んでいるだけだが、「三」を見ている時、僕の目は、線ではなく、線と線の間の空間に引き寄せられる。3本の線の微妙な長さの違いに挟まれた2つの空間は、分けられたというより、離れないようにくっつき、ひと続きになるために並んでいるように見えるのである。
 空間の調和と線の均整が取れた文字。それが「三」だと思う。
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2017年12月15日(金)

 過激な言葉を書くことで人の関心を得ようとしたり、世間の注目を浴びようとしたりする人がいる。
 それも、表現の自由のひとつなのかもしれない。けれど、ドキッとするような言葉だけで、人の気持ちを動かすことは難しいだろう。一度は読んでもらえても、中身が伴っていなければ、それで終わりになるような気がする。過激な言葉は、確かに目を引く効果があるが、副作用も強いに違いない。
 強烈だと感じる言葉は、麻薬のような作用があるのではないだろうか。人の心を惑わす力を持っている。
 問題なのは、言葉のインパクトが強過ぎるせいで、全体の文章が頭に残らないことである。そのうえ周りの人も、次にはもっとすごい言葉を待ち望む。
 期待されると応えようとするのが人間だ。どんどん言葉はエスカレートし、一人歩きを始め、本来伝えようとしていた内容から、ずれが生じる。目立ちたいために言葉を利用するあまりに、否が応でも人が普段使わない単語や物議を醸しだすフレーズを使ってしまう危険性もある。
 過激な言葉は一度だけなら許されても、たびたび用いるなら、その人自身が言葉につぶされるのではないか。
 言葉は「諸刃の剣」である。いつ自分に襲い掛かって来るのかわからない。
 言葉をあなどってはならないと、僕は自分に言い聞かせている。

書籍

『自閉症のうた』

東田 直樹

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2017年05月26日

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    書籍

    『あるがままに自閉症です』

    東田 直樹

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年06月17日

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      書籍

      『自閉症の僕が跳びはねる理由』

      東田 直樹

      定価 756円(本体700円+税)

      発売日:2017年06月15日

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