『自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>第4回 何目線?
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2017年11月28日(火)

 1等前後賞合わせて10億円が当たる年末ジャンボ宝くじが発売された。よく当たる売り場では、長い行列が出来たらしい。
 我が家では、あまり宝くじを買わないので、当選したかどうかのドキドキ感を味わうことは出来ないが、当たった人が、どんなに大喜びしたかと思うと、想像するだけで自分もわくわくする。
 もし、宝くじが当たったら何に使うのか。インタビューを聞いていると、家が欲しい人から高級チョコレートをお腹いっぱい食べたい人まで、人それぞれだった。
 僕ならどうするだろうと考えてみたが、金額が大き過ぎて、逆に思いつかない。
 お金が人生の全てではないが、お金で解決できることがたくさんあるのも事実だと思う。お金は、夢を達成するための手段のひとつなのかもしれない。一か八かの勝負という言葉があるが、宝くじを買う時の心境は、そんな感じがする。
 チャンスがあれば挑戦したいという気持ちは、人間誰しも持っているに違いない。
 いくら当たるかや何人当選するかの数字は、年々大きくなっているような気がするが、当選できなかった人たちの実態は、あまり公にはされていない。これは、オリンピックで金メダルを取った人だけが注目される様子に、似てはいないだろうか。
 華々しい栄光の裏には、多くの人の涙が隠されている。

2017年11月29日(水)

 僕は、人の顔が覚えられない。小学生の頃は、毎日会っているクラスメイトでさえ、誰が誰だかよくわからなかったので、その子が誰かを知るには、洋服についている名札が頼りだった。
 体型に特徴があったり、眼鏡をかけたりしている子は、比較的わかる。それでも、教室以外の場所で会うと、誰だかわからなかった。
 家族は見間違えることはない。けれど、それは長年一緒にいるからというより、声で区別できているのだと思う。声は、重要な情報源である。
 視線がそちらを向いていなければ、「見ていないとわからない」と注意する人がいるが、僕の場合、見ることと聞くことを同時に行うのが難しい。日常生活であれば、見ながら聞いていても、それほど不便を感じないが、見ることに集中すると、相手が何を言っているのかわからなくなり、聞くことに集中すると、自分が何を見ているのかわからなくなる。
 だから、見るか、聞くか、どちらの機能を優先した方がいいのか、僕は場面に応じて使い分けている。たとえば、テレビでニュースやドラマが放映されていると、画面は見ずに聞いている。画面を見ない方が、言葉を正確に聞き取ることが出来るうえ、想像力を働かせば、自分の中では何倍も楽しめるからだ。
 インターネットの動画は見ることを優先している。画面のインパクトが強く、あっという間に終わってしまうものが多いので、僕は動画を写真のように目に焼きつけて、頭の中に保存している。
 僕にとって見ながら聞くという状況は、右手と左手、両方に箸を持ってご飯を食べているようなものだと思う。
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2017年11月30日(木)

 人に謝るということは、とても難しい。僕自身もうまく謝れなくて、いつも苦労している。僕は、上手に話せない。言葉そのものが自分の意思で口から出てこないため、謝るといっても、「『ごめんなさい』は?」と一緒にいてくれる人に促され、おかしな発音で「ごめんなさい」とオウム返しのように言葉を繰り返すだけである。
 頭を下げれば、それでいいわけではなく、「謝る」で一番大事なことは、相手に許してもらうことだ。許してもらえなければ、どうしようもない。これは、かなり難しいことではないだろうか。
 謝罪で大事なのは誠意だろう。弁償するだけですまされることは少ない。被害を受けた人は、大抵、心からの謝罪を相手に求める。気持ちがすむまで、相手からの謝罪の言葉を聞き、自分は悪くなかったと納得したいのだと思う。
 人は、間違いを犯してしまうものだ。それは、みんなもわかっている。だから、人を許すことを美徳と捉える。許したいからこそ、相手に謝罪を求めるのである。
 矛盾しているようにも見えるが、許すという行為が善い行いであるなら、謝罪はいらないはずなのに、ほとんどのケースで、謝罪を受けることが許すことの前提となっている。
 被害を受けた時、自分ひとりの力で気持ちを整理するには限界があるのだと思う。

書籍

『自閉症のうた』

東田 直樹

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2017年05月26日

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    書籍

    『あるがままに自閉症です』

    東田 直樹

    定価 605円(本体560円+税)

    発売日:2017年06月17日

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      書籍

      『自閉症の僕が跳びはねる理由』

      東田 直樹

      定価 756円(本体700円+税)

      発売日:2017年06月15日

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