──インフルエンザ・ウイルスは普段、どこにいるのでしょうか。夏はほとんど流行せず、冬だけ流行るのも不思議です。

石:普段はシベリアやアラスカ、カナダなどの北極圏の近くで、凍り付いた湖や沼の中にじっと潜んでいます。春になって渡り鳥のカモやガンなどの水鳥が繁殖のために戻ってくると、ウイルスは水鳥の体内に潜り込んで腸管で増殖します。
 渡り鳥は年に二回、繁殖地と越冬地の移動の途中でふんといっしょにウイルスをばらまきます。

──つまり、インフルエンザ・ウイルスは渡り鳥が運んでいるということですか。

石:そうです。渡り鳥が運び役を担っています。渡り鳥の中には北極圏から南極圏まで、長距離移動するものもいますから、ウイルスを地球規模でばらまいているというわけです。

──その渡り鳥自体は感染しないのですか。

石:初期には鳥も感染してたくさん死んだと思います。しかし、長い長い年月をかけて共生してきたので、今では宿主を発病させることはありません。
 共生というのは珍しいことではありません。たとえば恐ろしい病原体と人間でも長い年月の間にはしだいに共存するようになります。病原菌の方が強すぎると宿主を殺してしまい、共倒れになって子孫を残せなくなってしまいますから、平和共存を目指さなくてはならないのです。

──水鳥のふんに潜むインフルエンザ・ウイルスが人間にたどりつくまでにどのような経路をたどるのでしょうか。

石:豚が重要な仲立ちをしています。豚の呼吸器の細胞は、多くのウイルスが感染できるようになっていて、ここに水鳥の持つウイルスが来ると、人に感染する型が生まれるのです。豚は新型インフルエンザ・ウイルスの『製造工場』ともいえるのです。
 豚でできた新しい型のインフルエンザ・ウイルスが、ヒトに広まっていくわけですが、その世界的な流行の起源と考えられているのが中国の南部です。
 中国南部では、アヒルやガチョウが豚といっしょに飼われていることが多いのですが、家畜化されているアヒルやガチョウは、水鳥が運んでくるウイルスに容易に感染します。アヒルやガチョウが豚から新亜型のウイルスに感染し、ヒトに伝わっていくと考えられています。過去100年間に発生したインフルエンザの世界的流行の多くは、中国南部に起源があったと考えられています。

インフルエンザ――人類を最も殺した病気

書籍

『感染症の世界史』

石 弘之

定価 1166円(本体1080円+税)

発売日:2018年01月25日

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