「本の旅人」2015年3月号からスタートした人気連載『うちのご近所さん』がとうとう一冊に。作者、群ようこさんにお話を伺います。
<単行本刊行時に「本の旅人」2016年3月号に掲載されたインタビューを再録しました>
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──新刊『うちのご近所さん』の主人公マサミは就職して三年経った時には「家を出よう」と決意したこともあったし、おつきあいした男性もいなかったわけではないけれど、なんとなく機会を逸しているうち、四十歳の今まで実家に居ついてしまった女性で、独身・実家暮らしの自分はいろいろと身につまされました。

群:そうでしたか。私は、子どもの頃からわりと引っ越しの多い家で育ったんですね。会社に勤めて、ひとり暮らしをするようになってからも二回契約を更新すると引っ越すみたいなことをやっていたので〈ご近所さん〉という感覚が全然なかったんですけど、今のところに住むようになってだいたい二十年経つんです。都心のマンション暮らしで、まさか二十年も同じところに住むとは思ってもいなかった。マンションとはいえ住み続けていると、町内の様子が変わったり、新しい方が引っ越してこられたり、お子さんが生まれたりとかね、いろんなことがあるわけです。地方と違ってそこまで密着したおつきあいがあるわけじゃないけど、会ったら挨拶する、立ち話するみたいな関係性がある中で、顔見知りの方に変化があったりすると、ああ、なるほどねと思ったりして。それこそ引っ越した当初から猫つながりで知り合った方とかが亡くなったり施設に入られたりすると、時のうつろいを感じるというか、他人なんだけど心情的に訴えるものがあるじゃないですか。ああ、ご近所さんっていうのはこういう感じなんだなあと今になって強く感じたんですね。

──お父様に引っ越し癖があったとか。

群:そうなんです。飽きっぽい父親の気まぐれで三、四年に一回は東京都内を転々と。子ども心に、また引っ越しか、面倒くさいなあと思っていました。小学校四年生の時にはひと駅隣に引っ越したんですけど、小学校でも学区によってランクがあるじゃないですか。それまでいた小学校ではすっごい成績がよくて、この私が神童と呼ばれていたんですけど、転校したら周りがとてつもなくできる子ばっかりで凡人以下になっちゃって。ひと駅違うだけでこんなに違うんだ、これからは目立たないように生きていこうって、初めて世の中を知ったのはあの時だったかも(笑)。

──『うちのご近所さん』の舞台も、その中のどこかだったりするんでしょうか。

群:具体的にどこと決めているわけではないですが、小学校四年生の時に住んだ街のイメージがあるような気がしますね。練馬なんですけど、当時はうちの父親が一番羽振りがいい頃で、それまでで一番いい家に住んでいたんです。出版社の役員の方が自宅とは別に持っていた家で、庭はドッジボールができるくらい広くて、外観はコンクリート打ちっぱなし。和室が一部屋ある以外は全部フローリング。五十年以上前なのにトイレは洋式だし、全室エアコン完備。北欧風のオシャレな家で、周りも会社役員の方が住んでいるようなお屋敷町でした。でも道一本裏手に行くと誰が住んでいるのかもわからないような小さな家がたくさんあって、私の中で住宅街といえば、あの頃のあの街の風景が浮かぶんですよ。それこそこの小説に出てくるギンジロウみたいな、通学路で仁王立ちしてる嫌われ者のおじさんもいたし、白塗りのセンダさんみたいな滅多に姿を見たことがない人もいて、これを読んだちょっと年上の編集者の方がすごく懐かしい感じがすると言ったのも、そういう風景にどこかノスタルジーを感じるからかもしれませんね。

──ご近所づきあいということで言えば「重箱入りでまわってくる手作りのおはぎ」なんかも「あったあった」とうなずいてしまいました。

書籍

『うちのご近所さん』

群 ようこ

定価 562円(本体520円+税)

発売日:2018年02月24日

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