人間の持つ外的排除の心理を可視化させてきた鉄条網。そんな負のイメージのなかで、清涼剤となることもある、というのが後編です。どういうことでしょうか。
<<【前編】世界で分断が続くのはなぜか。人間の外的排除の心理を見つめなおす。
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◆鉄条網が強欲と結びつく

──本書ではほかにも鉄条網が引き起こした地球規模の環境変化や、戦争なども描かれています。

石:鉄条網ができて土地の囲い込みが容易になったことで、アメリカではそれまで家畜を放牧させていたのが牧場になりました。囲い込まれた土地で家畜は草を食べつくし、土を踏み固めます。草地だったところの荒廃が目立つようになります。また農地も大型農業機械の導入で掘り返され、酷使され、土壌がやせ細っていきました。

 こうした土壌が悪化したところに干ばつが起こり、「黒いブリザード(吹雪)」と呼ばれるすさまじい大砂塵が巻き起こり、各地を砂で埋めました。

一瞬にして街を飲み込んだダスト・ボウル(1934年、アイオワ州)

一瞬にして街を飲み込んだダスト・ボウル(1934年、アイオワ州)

ダスト・ボウルが収まった後、村は砂塵で埋まっていた(1936年、サウスダコタ州)

ダスト・ボウルが収まった後、村は砂塵で埋まっていた(1936年、サウスダコタ州)

 1934年5月12日のニューヨークタイムズの紙面には「高さ数千フィートにも舞い上がった大砂塵が、1500マイルも離れた西部から押し寄せ、昨日は太陽の光が5時間もかすんで見えた」(1フィートは約0.3m、1マイルは約1.6㎞)、と報じました。映画にもなったスタインベックの小説『怒りの葡萄』のテーマでもあります。

──鉄条網によって安易に囲い込めたために大災害にまで結びついてしまったということですね。

書籍

『鉄条網の世界史』

石 弘之 / 石 紀美子

定価 1037円(本体960円+税)

発売日:2019年01月24日

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    書籍

    『感染症の世界史』

    石 弘之

    定価 1166円(本体1080円+税)

    発売日:2018年01月25日

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