『魔女の宅急便』で知られる角野栄子さんの作品世界を発信する児童文学館「魔法の文学館」は、建物部分から、今後は建物内什器や展示物の設置へ作業が移ります。庭園部分は引き続き造園工事が進められます。その様子をレポートしました!
取材・文/高関聖子(アンチェイン)
撮影:内山めぐみ
たくさんの表情を持つ「いちご色」
2023年の1月下旬。文学館の建物は、アートディレクター・くぼしまりおさんが決めた基本色に沿って進められた壁面塗装が完成し、表示等の設置や塗装の最終チェックが行われていました。今後は、設計を担当した隈研吾建築都市設計事務所から什器担当の乃村工藝社にバトンタッチされ、内装の設置作業に進む予定です。
入口付近のガラス壁から入る自然光と間接照明で、受付のいちご色は様々な表情に感じられます。カウンターの上部表面は硬いプラスチックですが、側面はフェイクレザーを使用。誰が触れても安全な仕様になっています。また、その高さにも高低差をつけ、子どもや車いすのゲストが利用しやすいバリアフリーになっていました
「コリコの町」は1階のメイン空間。ホールのような広々とした空間の床には、町を象った造形物がこれからいくつも設置され、背景にはさまざまなプロジェクションマッピングの映像が映し出されるそうです。どんな映像になるのでしょう。
階段の床はオーク材に何度も着色・検証して土の色を再現したもの。
階段の段差は低く一段一段に幅があり、大人から子どもまで上りやすい設計になっています。
大階段の右上に見える2階エリアの壁は建物の形をしているので、手すりの装飾と重なり立体的なシルエットに感じられます。まるで「コリコの町」に迷い込んだような感覚に。
2階には、「ライブラリー」や角野さんの自宅の書斎を再現した「栄子さんのアトリエ」(内装工事中)。そして、アトリエの隣には屋根の形状をそのまま活かしたスペース。このスペースは開館後、企画展などに使われる予定だそうです。
館内にはエレベーターも設置されています。エレベーターの中も、もちろんいちご色!
3階のカフェの戸棚やカウンターには、ミュージアムショップと同じ素材の天然木を使用。
イートインカウンターには、モバイル機器の充電もできるコンセントも設置されていました。
1階から3階まで、館内のガラスのあちこちに、フラワールーフをモチーフにした文学館のロゴマークが貼り込まれていました。
子どもの視点に立った景観を目指す「ランドスケープ」の仕事
文学館の敷地にある「ものがたりの丘」で進められている盛り土作業。
ランドスケープ設計(植物を使い、緑のある空間をデザインする仕事)を担当するクロス・ポイントの堀川朗彦さんは、「元のなぎさ公園の丘へ戻すように土を埋めるだけでなく、よりドラマチックに文学館を演出したい」という想いで、土の盛り方に工夫を凝らしているとのこと。
「子どもたちが丘の下から文学館に向かって登ってくると、最初は屋根がちょっと見えていただけだったのが、近づくにつれて徐々に建物全体が立体的に浮き上がって見えてくるように計算されています」(堀川さん)。
角野さんと隈研吾建築都市設計事務所、江戸川区の想いを受けて、子どもの視点でランドスケープを考える堀川さんは、着工前から丘の土質を調べ、施工中も常に自分の足で敷地内を歩き、景観を調整してきたといいます。「角野さんからの要望で、文学館の周りは子どもたちが思いきり遊べる草野原にしてほしい、と。泥んこになって遊んで、ちょっと疲れたらみんなでおうち(文学館)へ入っていく。そんな姿を想像しています。そのために子どもが遊びやすいランドスケープを目指し、前庭の滑り台には壁面にボルダリングの仕掛けなども入れ設計しています」
前回の取材時に盛られていた土が重機により転圧され、地表が少し低くなっていました。ここからさらに50センチほど土を盛り、部分的に傾斜を補強していくそうです。
さらに、ランドスケープ設計という仕事は景観だけでなく、土の中の“グリーンインフラ(自然の機能を活かしたインフラ整備)”整備にもこだわっていました。
「丘に植えられている大きな木々は、土の中で大きく長い根を張っています。雨が降ると木の根が雨水を受け止め、樹木の中に水分を蓄えます。丘全体の植物にある程度水が行き渡った後、残った雨水を丘の下に流し排水される仕組みを作っています」
また、フラワールーフを美しい花びらのような形にするために軒(のき)に雨どいは作らない、という設計のこだわりがありました。では、どうしたかというと、雨どいの代わりに軒下の地面に砂利を敷き詰めました。ここで雨水を受け止めて、そのまま自然の水路として排水する仕組みにしたそうです。
また、この丘の周辺には大きな建物がなく、夜になると文学館の明かりだけが浮かび上がることになるそうです。その明かりの見え方にも、植物の配置や丘の土の盛り方が大きく影響するというランドスケープ設計。仕事の奥深さを感じました。幻想的に浮かび上がる文学館を想像するだけで、胸が高鳴りますね。
前庭の滑り台ではこの日、クロス・ポイントと隈研吾建築都市設計事務所で表面の色を確認していました。予定していた色では、滑り台が太陽光に照らされ明るくなり過ぎる。文学館と調和しない、ということでワントーン暗い色に変更されました。
10名ほどの職人が強風と寒空の中、手作業で滑り台のモルタルを仕上げていきます。
日が暮れ始めたテラスで、とあるものを見つけました。
「魔法の文学館」の完成まであと約8カ月。内装設置工事も造園工事も安全第一に急ピッチで進められています。これまでにもたくさんの専門業者が関わり、いま、この瞬間にも多くの職人によって建物の細部が作り上げられています。
1年半あまり連載してきた『江戸川区角野栄子児童文学館 開館プロジェクト』のカドブン連載も今回で終了となります。取材を進める中でどんどん出来上がっていく建物を見るのが楽しかったです。
角野栄子児童文学館の新しい情報について、今後はこちらをご覧ください。
・江戸川区角野栄子児童文学館(江戸川区HP)
・魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館Instagram)
魔法がどんどんかけられていく角野栄子児童文学館のオープンをお楽しみに!
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