取材・文:葛山あかね
撮影:内山めぐみ
「江戸川区角野栄子児童文学館」開館プロジェクトレポート
▼第1回はこちら(https://kadobun.jp/feature/readings/entry-42511.html)
▼第9回はこちら(https://kadobun.jp/feature/readings/entry-46907.html)
「江戸川区角野栄子児童文学館」開館プロジェクト 第10回
角野栄子さん、建設現場に足を運ぶ!
「久しぶりに、ここに来ることができました。どんな感じで工事が進んでいるのか、ずっと気になっていたの」──角野栄子さんが、前回「江戸川区角野栄子児童文学館」の建設現場に足を運んだのは、施行が始まる前の2020年のこと。
今では、建物の輪郭が分かるまでに工事が進んでいます。角野さんは早速、ヘルメットを装着。複雑に足場が立ち並ぶ、建物の内部に足を踏み入れました(2022年9月)。
興味津々!現場を歩き回る角野さん
「このスペースは何になるの?」「入り口からの奥行きはどれくらい?」「こっちは本棚で、あっちは吹き抜けになるのよね?」──現場の様子を確認する角野さんは、行く先々でスタッフに質問を投げかけます。
「私、こういう現場を見るのが大好きなの。小さい頃から家に大工さんが来ると、その作業の様子を横でずっと見ていたりしてね」と楽しそう。
建物の中心となる「コリコの町の大階段」を2階に上がると、そこは中庭とつながる読書サロンや本の展示室のフロア。角野さんのご自宅の創作現場を再現したアトリエもできる予定です。それぞれの部屋の広さや窓の大きさ、方角、家具の設置場所の説明をうけた角野さんは、「図面だけでは分からなかったことが、具体的に見えてきました」と満足そう。
さらに階段を上りきると3階はカフェ空間になります。窓の外にはデッキを設けられ、オープンエアで楽しむこともできるそうです。「明るくていいですね。旧江戸川も見えて見晴らしが良さそう」
モックアップの説明を受けて見学終了。角野さんは安心した様子で「まだまだ大変な作業が続くと思いますけど、よろしくお願いいたします。完成を楽しみにしています」と現場スタッフに言葉をかけていました。
難所“フラワールーフ”の設置へ
角野さんの訪問後も、工事は着々と進んでいます。9月下旬には、この児童文学館建設の「一番の難所」といわれる屋根の取り付け作業が始まっていました。花びらのように広がる形が特長の屋根、“フラワールーフ”の設置は苦労の連続だそうです。
「屋根は大きく分けて10枚あります。1枚1枚形が違いますし、大きさも、設置する幅や角度もそれぞれ異なりますから、慎重で難しい作業になります」と話すのは、施工責任者の
まず大変なのは、屋根を取り付ける前の下地づくりです。「壁となる鉄筋コンクリートの上に、H鋼と呼ばれる重量鉄骨をのせ、そこに屋根を支える骨組みとなる母屋材や垂木材を設置していきます。H鋼を取り付けるために、事前に鉄筋コンクリートの所定位置に無数のボルトを打ち込んでおきます」と、現場を案内してくれたスターツCAM株式会社の施工担当の
下写真の左下端を見ると、グレーのコンクリートの壁の上からボルトが何本も突き出ているのが見えます。このボルトに、穴を開けられたH鋼を取り付けることで、強固に留めることができるのです。
「このボルトの位置が少しでもズレてしまうと、H鋼をきちんとはめることはもちろん、のせることすらできません」と竹内さん。ボルトは全体で700箇所以上、しかもボルトを仕込む間隔は工事場所によって違うとのこと。緻密な作業です。
たった1㎜のズレが、大きなズレに
さらに難しいのは、“フラワールーフ”が立体的に重なり合う部分。形やサイズ、傾斜が1枚1枚異なり、それぞれがイレギュラーに重なります。ということは、生じる隙間がそれぞれ異なるということ。全体の形状を美しく仕上げるために、重なり合う屋根と屋根のバランスや屋根を支える鋼材の角度など、複雑な要素をすべて計算して進めていかなくてはなりません。図面との誤差が生じることもあり、都度、調整を繰り返しながら、屋根の花びらを形成していきます。
竹内さん曰く、「屋根を支える垂木材の角度が1㎜ズレただけで、大きなズレに繋がってしまいます。“フラワールーフ”の見た目の美しさのためにはもちろん、雨漏りや劣化の原因に繋がるため、慎重な作業が要求されます」。
屋根材は、現場で加工!
また、現場には見慣れないものが……。ロール状のものや細長い板状の金属が何枚も重ねて置いてありました。「これが屋根のパーツになります」(竹内さん)。塗装が施された素材は、マットな質感のステンレス鋼材だそうです。
屋根材は現場で、ロール状のステンレス鋼材を専用の機械に通して、両端を直角に曲げた建材に加工されていました。1枚の幅はおよそ30㎝。“フラワールーフ”10枚それぞれの面積に合わせた長さにカットされます。この板が組み合わさって、1面の大きな屋根の表面になるわけです。
建設現場はたくさんの専門業者によって成り立っています。
地盤補強業者、鉄骨の組み上げを行う鉄骨業者、クレーンによる揚重作業などを行う揚重業者、足場を組み高所の作業を行う鳶職人、建物の外壁・内壁の塗装業者など。「江戸川区角野栄子児童文学館」は、緻密な設計とそれを支える職人の技術で建設が進められています。
「江戸川区角野栄子児童文学館」開館プロジェクト関連記事
“圧倒的ないちご色の世界”を表現する家具の製作現場を訪ねて──「江戸川区角野栄子児童文学館」開館プロジェクト 第9回
https://kadobun.jp/feature/readings/entry-46907.html
特報!「江戸川区角野栄子児童文学館」の愛称とロゴマークが決定しました!
https://kadobun.jp/feature/readings/entry-47048.html