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特集

“圧倒的ないちご色の世界”を表現する家具の製作現場を訪ねて──「江戸川区角野栄子児童文学館」開館プロジェクト 第9回

取材・文:葛山あかね
写真:佐山順丸

西多摩にある造形工房で、角野栄子児童文学館の世界観を彩る本棚などの什器が製作されていました。工房に足を踏み入れるとそこには、これまで見たことのない、おうち形をした大きな本棚のオブジェがいくつも並んでいました。



“いちご色”の世界を、具現化する

製作を担当するのは、クオリティの高い空間の企画やディスプレイを得意とする「乃村工藝社」。この児童文学館においては、“いちご色”の世界を設計図に落とし込み、図面にはないイメージや微妙なニュアンスまで加味しながら、具体的な造形物に仕立てていきます。

そして造形の元になるのは、アートディレクターのくぼしまりおさんが手がけたイラストです。実は、くぼしまさんは『魔女の宅急便』執筆のヒントとなる魔女のイラストを描いた人であり、今回は角野栄子さんの頭の中に広がる物語をイラストに起こし、“圧倒的ないちご色の世界”を具現化するため1からデザインしました。


アートディレクターのくぼしまさんも製作現場へ。くぼしまさんは現在、作家、イラストレーター、翻訳家としても活躍中


この日の目的は、イラストを元に造形された本棚や家具のモックアップ(実物大の模型)と造形イメージに「ずれ」がないか確認すること。「モックアップを見ていただきながら、いちご色の見え方や、什器のサイズやボリューム感を実際に体感して、より児童文学館のイメージを膨らませていただく。一つ一つのパーツを突き詰めるためのファーストステップです」と乃村工藝社のデザインディレクター・芦田光代さん。

これまで、紙の上にしか存在しなかった“圧倒的ないちご色の世界”。空想の物語が、リアルで具体的な形を伴うことで、一気に現実味を帯びてきました。

造形、塗り方、テクスチャーまで

用意されたモックアップは、一番大きいもの(下記写真の一番左)で高さ約2.5m、幅1m、奥行き50㎝ほど。建物の本体や窓枠、屋根などがそれぞれ異なる色に塗られているのが印象的です。これは「木工の積み木みたいな感じにしたい」という、くぼしまさんの要望から生まれたといいます。左の2つは、コリコの町の大階段に設置されるもの。右に並ぶ6つ(3種類)の什器は、円形本棚に使われるものであり、素材や色の塗り方にバリエーションをもたせ、いくつかのパターンが用意されていました。


これまで見たことのない色や形の、飾り棚や本棚ばかり

これを見たくぼしまさんは「すごい、素敵!」と大興奮の様子ながらも、モックアップの手触りや色味、色の反射を一つ一つチェックしていきます。

カッチリとした現実的な造形にするのか、それとも柔らかな空想的な造形にするか。「私としては、カッチリとしたタイプがいい。ただ、(例えば屋根の庇部分の)角が鋭角すぎると経年劣化しやすくなるし、子どもの背丈だと頭がぶつかる高さにあるので危ない、少し丸みを帯びさせるなどの工夫は必要でしょう」とくぼしまさん。ほかにも、ディテールを手彫りにするか、機械彫りにするか、表面のテクスチャーや色の塗り方、本を入れる棚やベンチの機能部分の仕上げ方など、細部から全体的なバランスに至るまでさまざまな確認を工房のスタッフと行っていきます。


本を入れてみると、より本棚のイメージが広がる


ファンシーではない、モードな“いちご色”

特に話し合われたのは“いちご色”の塗りについて。本棚や家具だけでなく、壁の色も併せてトータルで見て「決してファンシーではない、モードないちご色」にすることが、角野さんの世界を表現するためには求められます。
以前、角野さんのご自宅の玄関の壁をいちご色に塗り直したところ、「当初予定していた色で塗ったら想像以上に明るく見えてしまった。ペンキ屋さんと相談して、結局は、それよりかなり暗い色に変えてもらい落ち着きましたが、それでも明るく映りました。手元でこの色がいいと思っていても、児童文学館の館内にそのまま塗ってしまうと、しつこくなるというか、狙ったモード感にならないかもしれない。その辺りに気をつけないといけないかな、と」(くぼしまさん)


屋根の裏や窓枠など、細かい部分まで色見本を当てながら調整する、くぼしまさんと芦田さん


ちなみに、このサイズの什器は館内に60体以上設置される予定! それもすべてが違う色や形で、本棚や階段の手すり部分、コリコの町並みに、というからワクワクします。ほかにも下記写真にあるような高さ20〜30㎝ほどのミニチュアサイズも10種類、合計100体ほど用意! こちらは大きな家具の屋根からはえた、キノコのような形で設置されるそうです。


3Dプリンターでつくられたミニチュアサイズ。「これ、家に2、3個欲しい……(笑)」とくぼしまさん


20分の1の世界

さらに、後日のこと。館内の一部を20分の1にした模型が用意されました。こちらは「本棚の並び方をはじめ、いちご色と床の色の相性といった、全体のバランスを見ていただくためにつくったものです」(芦田さん)。


コリコの町の大階段


読書エリアの模型

その模型の繊細なことといったら! 子どもが座って本の読めるハウス形ソファ(写真上:右手奥)が再現されていたり、本棚の上にミニチュアサイズの模型がずらりと立ち並んでいたり。なかでも、本棚に並ぶ1冊1冊の本の造形の細かさにくぼしまさんは感激。「もう! これ、江戸川区の宝です!」


円形本棚も20分の1の大きさで再現されていた


くぼしまさんが手がけた、円形本棚のイメージスケッチ(江戸川区提供)


これらを見ながら、さらに綿密な部分の打ち合わせが行われます。たとえば、大階段の両脇に並ぶ家具について。階段を上りきったところにある本棚が、その奥に見える展示物や風景と色はあっているか、邪魔になりはしないか、並び方や角度は適切なのか。また、各所に置かれるソファは、子どもがゆっくり本を読める奥行きがあるのか、ファブリックの素材は何なのか、汚れは落としやすいか、など多岐にわたる話し合いが行われていました。

試行錯誤と細かな調整を繰り返しながら、江戸川区角野栄子児童文学館のオープンに向かい、今もなお作業は着々と進められています。

建物全体が出来上がるのは今年の年末から年明けの予定だそう。
2023年11月のオープンが待ちきれない!


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