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特集

「当事者としてこの映画と向き合ってほしい」 主演の渡辺謙が福島への熱い想いを語る―― 映画『Fukushima 50』公開中!

撮影:細居 幸次郎  取材・文:タカザワ ケンジ  ヘアメイク:筒井 智美(PSYCHE) スタイリング:馬場 順子 衣装協力:ラルフ ローレン パープル レーベル/カルティエ 

東日本大震災から今年で9年。
あの日、あの時、福島第一原発の現場では何が起きていたのか――。
圧倒的なスケールで、福島第一原発事故の現実をリアルに描いた映画『Fukushima 50』が先日公開になりました。
当時、福島第一原発の所長だった吉田昌郎役を演じられた主演の渡辺謙さんが、映画を通じて改めて感じた福島への想いを熱く語ります。

吉田所長が負っていた
責任の重さ


――『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)を拝見しました。東日本大震災のとき、福島第一原発で何が起こっていたのかをリアルに映像化した作品で、渡辺さんは主人公の一人である吉田昌郎福島第一原発所長を演じられています。多くの国民の記憶に残っている実在の人物を演じることは挑戦だったのではないでしょうか。


渡辺:実はこれまで三、四回、まったく別の企画で吉田さんの役をやってもらえないかというオファーがあったんです。ただ、非常に重いテーマなので二の足を踏んでいました。今回は、まず人間ドラマがしっかりとあって、なおかつ実際に起きたことを描いた作品。これならば、一本の映画としていいものになるんじゃないかと思ったのでオファーを受けました。


――原作は門田隆将さんがたいへんな熱量で書き上げたノンフィクション作品『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』です。役を演じるにあたってどのようにリサーチされたのでしょうか。


渡辺:門田さんの原作をお読みして、吉田さんの生い立ちや人となりを想像したのはもちろんですが、実際に当時福島第一原発で働いていた方が撮影現場にいらしてくださったのも参考になりました。「あのときどうだったんですか?」と直接お話をお聞きできたことは大きかったですね。


書影

原作『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)


――吉田所長について、印象的なのが怒りの感情です。映画の中でも本店と意見の対立があり、声を荒らげる場面もたびたび登場します。


渡辺:彼は原発で働く職員たち、それに、起こりうる原発の外への影響を一身に背負っていた。その責任をまっとうしていくうえで、それらを阻害しようとしてくる外的な要因に対しては、強く憤慨していたと思います。


――おっしゃる通り、渡辺さんの演技には単色の怒りではなく、状況によって複雑な色合いの怒りが表現されていたように思います。そうした繊細な演技をあの閉じられた環境の中で表現するのは難しかったのではないでしょうか。


渡辺:当時、吉田所長がいたのは免震重要棟の緊急時対策室。原発を直接制御する中央制御室とは違う場所にあります。中央制御室は電源が落ちたり、決死隊を組んでベントをしに行ったりとドラマチック。ところが緊急時対策室は煌々と蛍光灯がついていてやたら人が多くて、撮影現場に身を置いていても、一見、危機的状況には見えない。その中で想像力を働かせて、外は危機的な状況だと感じなければならなかった。それはなかなかハードでしたね。

 映画本編では使われなかったんですが、監督と事前に話しておいて、現場でリハーサルせずにいきなり「さあ、みんな、立ち上がって。ちょっと体操しよう。深呼吸、深呼吸」と声を掛け、全員で身体を動かしたこともありました。実際、吉田さんもそういうことをやられていたそうです。



当事者として
向き合ってほしい


――現場の一体感が映画から伝わってきました。主人公としては渡辺さんと佐藤浩市さんですが、それ以外の方たちの〝熱〟も印象的です。チームの映画でもありますね。


渡辺:まったくそうですね。若い俳優たちも東日本大震災についてよく勉強していて、こちらが教えてもらうこともありました。頼りになるキャストでしたね。


――ボランティアとして被災地を訪れるなど個人的な活動もされていらっしゃるだけに『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)への思い入れも強いのではないでしょうか。


渡辺:僕自身は、東日本大震災が起きたとき、ロサンゼルスから成田に向かう飛行機の中にいました。ですから震災そのものは直接体験していないんです。しかし被災地を回ったり、いろんな惨状を目の当たりにしたとき、感じるものがすごくありました。ですから、今回、やっと本業で、震災についてプレゼンテーションできる作品にめぐりあえたという気がしてならないですね。いままで個人のレベルで被災地にエールを送ってきましたが、俳優として、こういう作品と出合えたのは大きな節目になったと思います。


――観客も映画を見ることで福島第一原発事故についてあらためて考える機会になると思います。


渡辺:忘却は人間が前に進む力にもなりますが、こればかりは忘れてはいけない。日本にはまだたくさん原発があるし、どこで地震が起こってもおかしくない。これまで起きなかったような、想像を超える災害がこの先いつでも起こりえます。そういう意味では、当事者としてこの映画と向き合ってほしい。未来と向き合うためのヒントにこの作品がなれば、この作品の価値があるなと思いますね。



心が揺れることが大事


――話は変わりますが、渡辺さんは荻原浩さんの『明日の記憶』にほれ込んで映画化の企画を進めたというエピソードをお持ちです。最近、どんな小説をお読みになりましたか。


渡辺:『逃亡者』(テレビ朝日開局60周年記念番組)の撮影がずっと続いていて、小説に集中するのが難しかったんですが、唯川恵さんの『みちづれの猫』がよかったですね。二日に一篇くらいずつ、寝る前に読んでいました。ほっこりして、はい、おやすみ、と(笑)。撮影中は長編小説が読めないので、短篇集かエッセイを読むことが多いんです。「小説 野性時代」のような文芸誌もよく読みますよ。


――俳優というお仕事にとっても小説や芸術作品に触れることは刺激になりますよね。


渡辺:もちろんです。心が揺れるって大事なことだと思うんですよ。役を演じることを通してだけではなく、本を読んで一観客として心が揺さぶられることもある。そうやって常に感情を動かしていないと、鈍くなってしまうような気がします。


――さまざまな役を演じられてきたわけですが、そこで感情を揺らし続けて来られたとも言えますね。


渡辺:よく「若いですね」と言ってもらえるんですが、なぜかと考えると、役を演じている間って、別の人の人生を生きている分、自分の実人生の時間をストップさせているような気がするんです。メンタル的に昔のまま変わっていないところがあるのかもしれません。


――それだけものごとにピュアに向き合えるのではないでしょうか。


渡辺:よく言うと、ね。浦島太郎みたいにいきなりパッと老けるかもしれないけど(笑)。



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『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)
© 2020『Fukushima 50』製作委員会
2020年3月6日(金) 全国公開
配給:松竹 KADOKAWA
映画公式HP:fukushima50.jp
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渡辺 謙

1959年生まれ。新潟県出身。俳優として世界で活躍し、2003年に映画『ラストサムライ』で「第76回アカデミー賞」助演男優賞、「第61回ゴールデングローブ賞」助演男優賞にノミネートされた。代表作は映画『明日の記憶』『硫黄島からの手紙』『沈まぬ太陽』など。

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